Last Updated on 2026年8月30日 by zgurdu
打ち合わせで必ず一度は出る質問があります。
「自然素材の家って、お手入れが大変なんですよね?」です。
無垢の床と塗り壁のサンプルをテーブルに並べると、みなさん最初は手のひらで撫でて「気持ちいいですね」とおっしゃいます。
その3分後くらいに、少し声を落としてこの質問が来ます。
はじめまして。
新潟市西区でインテリアコーディネーターと住宅ライターをしている星野千尋と申します。
新潟の地場工務店で7年、そのあと東京の設計事務所で3年ほど、都市型の住宅やリノベーションの内装を担当してきました。
32歳で新潟に戻り、いまは県内の工務店さんの内装監修と、住宅メディアへの寄稿を半々くらいでやっています。
10年あまりこの仕事をしてきて、冒頭の質問への答えははっきりしています。
大変かどうかは、自然素材かどうかでは決まりません。
決めているのは、樹種と塗装と施工、そして住む人が何を「汚れ」と見なすかです。
この記事では、「大変そう」と言われているものの中身を一つずつ分解していきます。
特に新潟にお住まいの方には、冬の湿度の話を読んでいただきたいと思っています。
おそらく、思っていらっしゃることと逆の数字が出てきます。
目次
「大変そう」の中身を分解すると、4つしかありません
まず、みなさんが不安に思っていることを具体的に並べてみます。
これまで受けてきたご質問を整理すると、だいたい次の4つに集約されます。
| 気になっていること | 実際に起きること | 元に戻せるか |
|---|---|---|
| 傷・へこみ | 物を落とすとへこむ。柔らかい樹種ほど顕著 | 繊維が潰れただけなら戻せる |
| 板と板の隙間 | 冬に開き、夏に閉じる。細かいゴミが入る | 季節で変動する。ゼロにはできない |
| 水シミ・黒ずみ | こぼした水を放置すると輪じみになる | 削って塗り直せば消える |
| 塗り壁のひび割れ・手垢 | 開口部まわりに細く入る。スイッチ横が黒ずむ | 補修・塗り直しができる |
こうして並べてみると、性質がまるで違うことが分かります。
傷とシミは「起きるけれど直せるもの」です。
隙間は「直すものではなく、季節で開いたり閉じたりするもの」です。
つまり、自然素材の家で起きることの多くは、取り返しがつかない類のものではありません。
ここが工業製品の建材との一番大きな違いだと私は思っています。
表面にシートを貼ったフローリングは、いったんめくれてしまうと、削って直すことができませんから。
無垢材が動くのは、調湿している証拠です
隙間の話をもう少し掘り下げます。
木が動く理由については、新潟県森林研究所が分かりやすい解説を公開しています。
木材と水分についてによれば、木材の中の水分には自由水と結合水の2種類があり、このうち結合水が木材の膨張・収縮に大きく影響するのだそうです。
自由水がなくなって細胞壁が結合水で飽和した状態を繊維飽和点と呼び、このときの含水率は約30パーセント。
ここからさらに乾燥が進むと結合水が失われ、収縮や狂いが生じます。
そして国内の平均的な温湿度条件では、含水率15パーセントで安定すると書かれています。
私がこの資料で一番大事だと思っているのは、そのあとに続く一文です。
調湿効果は木材の膨張・収縮を伴うので、乾燥材を使うことで隙間や狂いの少ない内装を作ることができる、という記述です。
読み替えると、こうなります。
木が湿気を吸ったり吐いたりしてくれることと、木が伸び縮みすることは、同じ現象の裏と表です。
「調湿はしてほしいけれど動いてほしくない」というご要望は、原理的に成立しません。
動く量は、施工でずいぶん変わります
とはいえ、動く量を減らす手立てはあります。
現場でよく見るのは、フローリングの梱包を開けて1週間ほど現場の空気になじませてから貼る職人さんです。
一方で、届いたその日に貼ってしまう現場もあります。
同じ材料を使っても、後者のほうが隙間は出やすくなります。
無垢床で困ったという話をうかがったとき、私がまず疑うのは素材ではなく、この段取りのほうです。
へこみについても補足しておきます。
木の繊維が切れずに潰れているだけの丸いへこみであれば、水を含ませて膨らませると、かなりの部分が戻ります。
使っていくうちに必ず付くものだからこそ、直せるかどうかは大きな差になります。
新潟の冬は、外が湿っているのに室内はカラカラです
ここからが、新潟にお住まいの方に一番お伝えしたい話です。
「新潟は雪国で湿気が多いから、木の家に向いているんですよね」と言われることがあります。
半分は当たっているのですが、冬に関しては、実は逆のことが起きています。
気象庁が公表している平年値(1991年から2020年の統計)で、新潟市と東京を並べてみます。
| 1月の平年値 | 新潟 | 東京 |
|---|---|---|
| 平均気温 | 2.5℃ | 5.4℃ |
| 平均相対湿度 | 72% | 51% |
| 平均蒸気圧 | 5.6hPa | 4.5hPa |
| 日照時間 | 56.4時間 | 192.6時間 |
相対湿度だけを見れば、新潟の1月は東京より20ポイント以上高い。
数字の上では、確かに湿っています。
ところが蒸気圧、つまり空気に実際に含まれている水分の量を見ると5.6hPaしかありません。
新潟の8月は25.9hPaですから、4分の1以下です。
冬の外気の相対湿度が高いのは、水分が多いからではなく、気温が低いからなのです。
この空気を室内に取り込んで、暖房で20℃まで温めるとどうなるか。
含まれている水分の量は変わらないまま、その温度の空気が抱えられる水分の量だけが跳ね上がります。
計算すると、相対湿度は20パーセント台まで落ちます。
外は雪でしっとりしているのに、室内はカラカラ。
これが新潟の冬の実態です。
無垢の床の隙間が冬に開くのは、まさにこの時期です。
ですから私は、新潟の自然素材の家では加湿器を「快適さのための家電」ではなく「床のための道具」だとお伝えしています。
冬に室内の湿度を保つことは、ご家族の喉のためだけではありません。
床と建具のためでもあります。
もうひとつ、日照時間の差にも目を向けてみてください。
新潟の1月の日照は56.4時間で、東京の3分の1以下です。
拭き掃除のあとの乾きが遅い、オイルを塗ったあとの乾燥に時間がかかる。
新潟で自然素材と暮らすというのは、この乾きにくさと折り合いをつけることでもあります。
手間の量を決めるのは、素材そのものではありません
さて、実際の手入れの頻度です。
正直に書きますが、ここは調べれば調べるほど数字がばらつきます。
オイル塗装の床の塗り直し周期を各社の説明で見比べると、「キッチンまわりは半年に1回」と書いてあるものから「3年から5年に1回」と書いてあるものまでありました。
6倍から10倍の開きです。
この開きこそが答えだと私は思っています。
手間の量は「自然素材かどうか」ではなく、樹種と塗装と施工の3つで決まります。
- 杉やパインなどの柔らかい針葉樹は傷が付きやすく、オークやチークなどの硬い広葉樹は付きにくい
- オイル塗装は質感が良いかわりに塗り直しが要り、ウレタン塗装は樹脂の膜で守るので手入れはほとんど不要
- 乾燥した材料を使っているか、現場でなじませてから貼っているかで、隙間の出方が変わる
塗装の違いは、暮らしへの影響が特に大きいので表にしておきます。
| オイル塗装 | ウレタン塗装 | |
|---|---|---|
| 足触り | 木そのものの質感が残る | 樹脂の膜を感じる |
| 日常の手入れ | 乾拭き・掃除機 | 乾拭き・掃除機 |
| 塗り直し | 定期的に必要 | 基本的に不要 |
| 部分補修 | その場所だけ塗り直せる | 全面の研磨と再塗装になる |
打ち合わせでよくお勧めするのは、家じゅうを同じ仕様にしないという考え方です。
リビングの見せたい範囲はオイル塗装、水がかかるキッチンまわりや洗面はウレタン塗装というように分ける。
「自然素材の家にするかしないか」の二択で考えると、手入れの負担が実際より重く見積もられてしまいます。
ひび割れも汚れも、自然素材だけの問題ではありません
塗り壁のひび割れを心配される方も多くいらっしゃいます。
これについては、少し視野を広げた数字をお見せします。
住宅リフォーム・紛争処理支援センターが公表している住宅相談統計年報2025によると、2024年度の新規相談件数は30,812件。
住宅のトラブルに関する相談のうち、実際に不具合が生じている割合は新築相談で74.6パーセントに上ります。
そして新築相談の戸建住宅で最も多かった不具合の事象が「ひび割れ」で、次いで「雨漏り」「性能不足」と続いています。
この統計は、自然素材の家に限った集計ではありません。
ビニルクロスの家も含めた、新築住宅全体の相談です。
それでもひび割れが最多だということは、ひび割れが塗り壁に固有の現象ではなく、家が動くことで起きる現象だという意味になります。
塗り壁の場合は、その動きが表面に見えやすいというだけの話です。
そして塗り壁には、クロスにはない利点があります。
同じ材料を上から塗って直せることです。
漆喰の性質について、もうひとつ知っておくと安心できることがあります。
日本左官業組合連合会が公開している技術情報によれば、漆喰は乾燥と炭酸化によって固まっていき、その反応は塗り表面から順に内部へ進んでいくのだそうです。
塗ったばかりの漆喰は傷が付きやすいという注意書きも添えられています。
言い換えれば、入居直後がいちばんデリケートな時期で、そこから先は少しずつ丈夫になっていきます。
引っ越しの日に壁を擦ってしまったという話をよく聞くのは、このためです。
汚れの落とし方は素材によって違うので、分けて覚えておいてください。
- 漆喰の手垢はプラスチックの消しゴムでこすると落ちることが多く、落ちなければ固く絞ったメラミンスポンジを使います
- 珪藻土は基本的に水拭きができないので、乾いた状態で消しゴムを当てるか、範囲が広ければ上から塗り直します
- 無垢床にこぼした水はすぐ乾いた布で押さえ、輪じみになったら紙やすりで削ってオイルを塗り直します
拭ける壁を選ぶか、拭けなくても質感を優先するか。
これは性能の優劣ではなく、暮らし方の好みの問題です。
自然素材でも、換気の手入れからは逃げられません
もうひとつ、誤解されやすいところに触れておきます。
「自然素材の家は呼吸するから、換気システムはいらないのでは」というご質問です。
これは制度の面ではっきり答えが出ています。
国土交通省の建築基準法に基づくシックハウス対策についてによれば、2003年7月1日の施行以降、居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則として義務付けられています。
ホルムアルデヒドの発散が少ないF☆☆☆☆等級の材料を使っていても、換気設備が不要になるわけではありません。
そして自然素材の調湿は、あくまで湿度を調整するものです。
室内にこもった水蒸気そのものを外へ出す機能ではありません。
無垢と漆喰でつくった家であっても、換気システムのフィルター掃除は年に何度か必要です。
自然素材の家の手入れを心配されるなら、床のオイルより先に、このフィルターの存在を思い出していただきたいと思います。
どんな仕様の家にも共通してやってくる作業ですから。
新潟のハイエンド住宅が選んでいる、現実的な落としどころ
最後に、県内の実例から見えることを書きます。
新潟で上質な注文住宅を手がけている会社の仕様を見ていくと、面白い共通点があります。
グレードが上がるほど自然素材の面積が増えるのですが、その床材が「無垢」ではなく「挽き板」であることが多いのです。
たとえば新潟市の青山ホームは、フラッグシップの「Villa」で1階2階とも無垢挽板フロアとイタリア漆喰を採用しています。
ミドルクラスの「Aira」も1階は無垢挽板フロア。
ハーバーハウスの「ORGA」も、挽き板フローリングを「無垢材の意匠性や質感をそのまま楽しめ、機能性にも優れた」ものとして説明しています。
挽き板というのは、天然木を数ミリの厚みに挽いたものを合板に貼り合わせた床材です。
足が触れる表面は本物の木そのもの。
その下が動きにくい合板なので、幅方向の伸縮が抑えられます。
これは妥協ではなく、新潟の気候に対する回答だと私は受け止めています。
冬に室内が乾き、夏は湿度が上がる土地で、質感と寸法の安定を両方とりにいくための選択です。
価格帯が上がるほどこの現実的な判断をしているというのは、家づくりを考えるうえで示唆的だと思います。
実際にどんな住まいが県内に建っているのか、写真つきで眺めてみたい方は、新潟のハイエンドな住宅やインテリアを紹介しているブログをのぞいてみてください。
仕様書の文字だけでは伝わりにくい、素材の見え方や空間の雰囲気がつかめると思います。
まとめ
長くなったので、要点を整理します。
- 自然素材で起きることの多くは、削る・塗る・膨らませることで直せる
- 木が動くのは調湿しているからで、動きをゼロにはできないが、乾燥材と丁寧な施工で減らせる
- 新潟の冬は外気の相対湿度こそ高いが、暖房を入れた室内は20パーセント台まで乾く
- 手入れの量を決めるのは自然素材かどうかではなく、樹種と塗装と施工
- ひび割れは新築住宅全体で最も多い不具合であり、塗り壁だけの問題ではない
- 換気システムのフィルター掃除は、どんな家にも共通して必要
自然素材の家が「大変」だと言われるとき、その中身はたいてい、家じゅうを無垢のオイル塗装にした場合の話です。
けれど実際の家づくりでは、場所ごとに仕様を変えられます。
どこに手をかけたいか、どこは手を抜きたいか。
それを決めるのは工務店ではなく、住むご家族です。
サンプルを触って「気持ちいい」と感じたなら、その感覚は信じていいと私は思います。
そのうえで、掃除機をかける自分の姿を想像しながら、場所ごとの仕様を選んでいってください。
10年経ったときに愛着が残るのは、たいていそうやって選んだ家です。



